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京都地方裁判所 昭和59年(ワ)468号 判決 1985年10月04日

原告 刈谷安次郎

原告 刈谷健次郎

原告 村田泰之

右原告ら訴訟代理人弁護士 松枝述良

被告 株式会社近江富士カントリークラブ

右代表者代表取締役 柿木篤

右訴訟代理人弁護士 湯浅徹志

主文

一、被告は原告刈谷健次郎に対し、金一五〇万円及びこれに対する昭和五九年三月六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告刈谷安次郎及び同村田泰之に対しそれぞれ金二八〇万円およびこれに対する昭和五九年三月六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、この判決は、仮りに執行することができる。

事実

第一、申立

一、原告ら

主文同旨

二、被告

1. 原告の請求を棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

第二、主張

一、請求の原因

1. 原告らは被告の経営する近江富士カントリークラブ(以下、本件クラブとという)に入会するに当たり、会員資格保証金として左の通り預託し入会した。

(一)  原告刈谷健次郎は、昭和四八年一〇月九日、金一五〇万円

(二)  原告刈谷安次郎及び同村田は、同五〇年一一月二五日頃、金二八〇万円

2. 原告らの右保証金預託にあたって、被告は、原告健次郎についてはゴルフ場の開場後、同安次郎及び同村田については預り証発行後、各五年経過後は、退会したときに右預託金を返還する旨を約束した。

3. ゴルフ場は、昭和五二年六月二八日に開場した。また、原告安次郎と同村田は同年一二月五日に預り証の発行を受けた。

4. 原告らは被告に対し、昭和五九年三月五日被告に到達した内容証明郵便により、本件クラブを退会する旨の意思表示および右預託金の返還を催告した。

5. よって、原告らは被告に対し、右預託金及びこれに対する返済期日の翌日である昭和五九年三月六日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二、被告の認否

1. 第1項を認める。但し、原告安次郎と同村田が入会し、保証金を預託したのは、昭和五二年一二月五日である。

2. 第2項を否認し、第3項、第4項を認める。

三、抗弁(会員資格保証金の償還請求時期)

1. 会員により結成されている本件クラブの会則によれば、会員から預かった保証金の返還については、預り証に記載されている返還期間の如何に拘らず、会員が正式にクラブのメンバーとして登録された日より一〇年間経過しなければ返還してはならないことになっている。これはクラブの理事会で決議され昭和五一年一一月一日より実施されている。また、開場前入会者である原告健次郎については、前記会則によって、開場後八年を経過した後でなければ、返還請求できないことになっている。

更に仮に返還請求時期が到来したと仮定しても、保証金の返還は、会則の細則により三六回の分割払にすることに理事会で決議されているので、被告としてはこの分割弁済に応じた支払いをすることになる。

2. 被告主張の会則は原告らを拘束する。

(一)  原告健次郎について

原告健次郎が入会した時には、クラブの会則は制定されていたが、正規のものではなく、将来正規の会則を制定する為のいわば仮会則であった。原告健次郎は、正規の会則が近く制定されたならばその会則に従うことを約束して本件クラブに入会した。したがって、原告健次郎は後日制定された会則に拘束される。原告健次郎については、会則が変更されたのではなく、いわば入会後に会則が制定されたものであり、これに従うのは当然である。

(二)  原告安次郎、村田泰之について

原告安次郎、同村田は昭和五二年一二月五日に近江富士カントリークラブに入会している。この時には既に会則は制定されており、会則を承知のうえで入会したことになる。同原告らの場合、会則に拘束されるのは当然である。

(三)  仮りに、被告主張の会則の定めが、原告らが入会した後の改正された会則に該るとしても、やはり原告らを拘束する。すなわち、

(1) ゴルフクラブの会則は一つは会員相互間、一つは会員とクラブ間、一つは会員と会社間を規制する為に規定されている。会則が制定されるのはこれらのことを画一的に処理する為のものであり、単に個人と個人とを規制する側面だけをもつのではなく、会社と会員全体というように個人と団体を処理する側面をも有している。特に預託金制ゴルフクラブの場合、この個人と団体との規制につき単に団体員としての一会員を問題にするのでなく、会員全体の利益を考えに入れた上で判断しなければならない。

(2) 会則に据置期間等の変更が規定されている場合、手続に従って変更されたならばその会則が有効であり、これにより会員が規制され拘束されるのは当然である。なぜならば、会員はクラブ入会に際し会則に従うことを約束の上入会しているのであるから、会則が変更されればそれに従うことを先行的に承諾していたのである。又クラブには理事会が設置され、会員全体の利益を守ることを使命としているのであるが、会則変更に際し、理事会はその必要性を十分審議した上で承諾したのであるから、一個人の会員には不利益であっても、会員全体からすれば預託金返還の据置期間の延長は有益なことである。

(3) 本件会則の変更は理事会の承諾を条件に認められた。変更手続は正当であり、会員は会則の法的拘束力により拘束されるのは当然である。

四、抗弁に対する認否

本件クラブの会則の制定、実施、変更の事実は、全て知らない。

仮に被告主張の日時に被告主張の如き会則の制定があったとしても、全く原告らの関知しないところである。会則は被告が会員と会社の関係を規律する為に定めたものではない。会則は、被告とは別個な社交団体としての近江富士カントリークラブの会員が、クラブの組織や会員相互の関係を規律する為につくられたものにすぎないものである。会則にどのような定めがなされようと、また、それ以前に被告の内部関係でどのような定めがあろうと、会社と会員との権利関係は会社と会員個人間の契約関係によって定まるものであって、同クラブの会則がどうであれ、被告は原告から五年間の据置後は何時でも返還するとの条件で預り、原告らは入会したものである。

第三、証拠関係<省略>

理由

一、請求原因第1項中、原告安次郎と同村田の入会時期を除く事実は、当事者間に争いがない。

成立につき争いのない甲第二号証及びこれにより真正に成立したと認めうる同第五号証によれば、原告安次郎は昭和五〇年一一月二五日に本件クラブに入会し、同五二年一二月五日までに入会金を完済したことが認められ、これに反する証拠はない。

成立につき争いのない甲第三号証及び原告村田の本人尋問の結果によれば、同原告は昭和五〇年一一月か一二月に、本件クラブに入会し、昭和五二年一二月五日までに入会金を完済したことが認められ、これに反する証拠はない。

二、いずれも成立につき争いのない甲第一ないし第三号証によれば請求原因第2項が認められ、これに反する証拠はない。

三、請求原因第3項、第4項は、当事者間に争いがない。よって、抗弁について判断する。

四、成立につき争いのない乙第三号証によれば、本件クラブの会則の内容は多様であることが認められ、その中には、会則が実施される以前に入会した者にも無条件で適用される条項もありえようが、本件において被告が主張する会則の条項は、会員の重要な権利である被告に対する預託金返還請求権の行使を妨げるものであるから、会則の制定、実施前の入会者に対しては、会員の個別的同意がなければ効力はないと解すべきである。しかし、被告主張の会則が、原告らの入会前に制定、実施されたことを認めるに足りる証拠はない。もっとも乙第三号証によれば、右会則は原告安次郎及び同村田が入会金を完済するまでに制定、実施されたことが認められるが、本件会則の適用は、その前記内容に照らし、入会の時期との先後関係で決められるべきものであるから、右事実をもって、同原告らが当然に右会則の適用を受けるべきものではない。そうして、原告らが、右同意をしたとの主張はない。また、理事会が分割払の決議をしてもこれが原告らの本件権利行使を妨げうる根拠とは何らなりえない。

よって、被告の抗弁は理由がない。

五、以上により、原告らの請求は理由があるから、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 杉本順市)

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